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制裁措置がスキーム・オブ・アレンジメントに与える効果をケイマン裁判所が明示

Insight

16 August 2024

Cayman Islands, Hong Kong

1 min read

昨今、ケイマン諸島の判決で、債権者との間のスキーム・オブ・アレンジメントを取り扱ったRe In the Matter of E-House (China) Enterprise Holdings Limited [1]において、セガル裁判官が米国、英国、ヨーロッパにおける制裁措置がスキーム・オブ・アレンジメントにどのような潜在的な法的影響をもたらすか、また、当該スキームが国際的にどのような法的効果を有するのかを明確にする判断を示しました。


現在のマクロ経済環境およびグローバル市場の激動状況に照らせば、誠実な企業再建実施後も継続した企業の事業活動が可能となるような方策を模索することにつき、柔軟で積極的な役割を果たす意思が裁判所にあることを確認したものです。


なお、ケイマン諸島が企業再建における最先端の法域であることは、裁判官による会社債権者との調整案策定のために会社を代理するリストラクチャリング・オフィサーの選任にかかる第一号事例からも示されています。この事例については「ケイマン諸島における新たな企業再建の幕開け」をご参照ください。

背景およびスキーム・オブ・アレンジメントの提案

E-House (China) Enterprise Holdings Limitedは、中華人民共和国の不動産業界で事業活動を行う300のエンティティグループの親会社としてケイマン諸島に設立された会社です。

本会社の株式は香港証券取引所に上場していました。また、2022年および2023年中に満期が到来するニューヨーク法に基づく社債(「本ノート」)を6億米ドル分発行し、さらに、元本額1億3500万米ドル分のコンバーティブル・ノートを発行していました。本ノートは、BVIおよび香港の子会社(「子会社保証人」)によって保証されていました。グループ会社全体が財政的困難に直面し、これらの債務を整理する必要がありました。会社はリストラクチャリング・オフィサーや暫定清算人の選任を行いませんでしたが、スキームの監督をAlvarez & Marsalに依頼しました。

2022年4月18日に満期となった本ノートのうち3億米ドル分を同社は返済できず、これがコンバーティブル・ノートのデフォルトおよび2023年中に満期が到来する本ノートのクロスデフォルトを誘発しました。初期に実施された本ノートの任意整理が奏功しなかったことから、本会社は、本ノートの整理計画および同計画に基づくコンバーティブル・ノート保有者によるデフォルトの免責を試みました。

スキーム・オブ・アレンジメント

本会社が望んだスキーム・オブ・アレンジメントは、概要、以下の通りです。


1.    新しいノートおよび一定の現金支払いを対価(「本スキーム対価」)として本ノートに基づく請求権の放棄および整理計画に起因するノート保有者の請求を放棄させる。
2.    本ノートを失効させ、子会社保証人を解放する。
3.    スキームの効力発生日前までに再建支援協議案の当事者となった場合には保有しているノートの元本総額の1%のインセンティブ料を支払う。

制裁

会社は、3つの別々の制裁措置に対応する必要がありました。

1.    ノートの準拠法(ニューヨーク法)に基づくアメリカ合衆国の制裁措置
2.    本会社がケイマン諸島の会社であり、ケイマン諸島がイギリス海外領土であることに基づく英国の制裁措置
3.    本ノートが保有されていたクリアリングシステムの一つが特定の制裁対象となっていたことに基づく欧州連合の制裁措置

情報収集会社のサポートを受けて、本会社は、対象ノートの保有者が個人として制裁対象とはされてないものの、6.65%のノート保有者が制裁対象となっているクリアリングシステム(ロシア国立決済デポジトル(Russian National Settlement Depositary、「NSD」))を通じて口座を保有していると判断しました。そのため、本会社は、通常のコミュニケーション・ツールであるクリアリングシステムを通じた書類準備および指示提供を、NSDを通じてノートを保有しているノート保有者(「被ブロック・ノート保有者」)との間では実施不可能であると判断しました。本会社の銀行も、それらの被ブロック・ノート保有者に対する直接支払いができないことを確認しました。

被ブロック・ノート保有者についての本会社の対応

この制裁にかかわる問題を解決するために、本会社は、被ブロック・ノート保有者については、投票権行使ができないものとしたうえで、グローバルなフォームを通じて新たなノートを発行することを提案しました。さらに、議決権行使可能な債権者によってスキームが承認された場合、被ブロック・ノート保有者に対して支払われる本スキーム対価(および、NSDの外でやり取りされていた再建支援合意の一当事者に支払われるインセンティブ料)は、信託受託者が代理して保持されるものとしました。

裁判所の判断

ケイマン諸島のスキーム・オブ・アレンジメントは審尋を2回実施しなければなりません。一回目はスキーム・オブ・アレンジメントにかかる投票を行うために開催される調整会議および当該投票に向けたコミュニケーションの実施方法を承認するための召集審尋であり、二回目は調整会議における投票結果を評価し、当該投票結果について全債権者(反対票を投じた債権者および投票できなかった債権者を含む。)に対する拘束力を付与する認可を行うかどうかを裁判所が検討する認可審尋です。

e-Houseの召集審尋において、セガル裁判官は、被ブロック・ノート保有者が調整会議に出席して投票する権利が奪われる内容には同意しませんでした。被ブロック・ノート保有者自身が制裁の対象である場合には見解が異なりうると認めましたが、本件はそのような状況にないことから、スキーム・オブ・アレンジメントの当事者となる債権者すべてについて調整会議における投票権が確保され、どのように投票するかを決定するための十分な情報が提供されるべきであると示しました。被ブロック・ノート保有者の出席を認めないとして本会社が提示した唯一の理由は、ノート保有者との間のコミュニケーションまたはノート保有者からの指示を受けるために活用されていた(クリアリングシステムを通じた)連絡方法が、制裁措置により利用できないという点にありました。裁判官の懸念に関し、本会社は、被ブロック・ノート保有者に書面を配布し、投票にかかる指示を受ける調整方法も実施可能であることを認めました。このため、セガル裁判官は、上記理由だけでは被ブロック・ノート保有者の調整会議への出席権および投票権を喪失させるには不十分であり、情報提供を十分なものとするためにスケジュールを修正することを許可しました。

他方で、裁判所は、被ブロック・ノート保有者に示された、本スキーム対価にかかる信託の準備には反対しませんでした。

国際的な影響

調整案にかかる召集審尋(における暫定的な判断)および認可審尋における判断のなかで、裁判所は、調整案が終局的にも効果的なものであるかどうかを検討しなければなりません。そのため、例えば、調整案が債権者に対して拘束力を持たない場合、または、会社の重要な財産が所在する法域においては調整案が無効とされ、もしくは、会社が破産手続に服する可能性がある場合には、調整案は効力を有しないものと判断される可能性があります。

この問題は、香港(保証人となった子会社が設立された場所)との取引があった会社に関して特に焦点が当てられました。これにはIn Rare Earth Magnesium Technology Group Holdings Limited [2022] HKCFI 16896(「レアアース事件」)においてハリス裁判官が下した判決が影響しています。ハリス裁判官は、Agrokor d.d., No. 18-12104 (Bankr. S.D.N.Y. Oct. 24, 2018) (MG)におけるグレン裁判官の判決を参照して、米国の破産法典第15章(「第15章」)に基づく外国手続(例えば調整案)の承認命令は、「オフショア法域で認可されたうえで第15章に基づいて米国で認識された手続は、香港の裁判所との関係では、米国債務の減免があったものとは認識されない」として、対象米国債務が免除されないと判断したものです。

ニューヨーク法(本ノートの管轄法域)の下においてもスキーム・オブ・アレンジメントが拘束力を持ち、効力を有することを確保するために、本会社は、裁判所に対し、調整案が認可された場合には、第15章に基づく救済措置を求めること、および調整案の効力も米国裁判所による当該救済措置の発令を条件とすることを了承しました。

レアアース事件によって提示された懸念を踏まえ、本会社は、経験豊富で特にその意見が重要視されている米国の破産裁判官(グロッパー裁判官)が作成した専門家意見書を提出しました。そこでは、端的にいえば、第15章に基づく命令が下された場合には米国裁判所も調整案の各条項に「完全な効力と効果」を認めるはずであるという意見が述べられていました。グロッパー裁判官は、ハリス裁判官が示した米国法の適否に関する要約を引用したIn re Modern Land (China) Co., Ltd 2022 WL 2794014 (Bankr. S.D.N.Y, 2022年7月22日)におけるグロー裁判官の検討内容に触れ、そもそも当該要約が不正確であったと結論付け、第15章に基づく命令は米国管轄債務を免除する効果を有するものであるとの意見を述べました。

以上の状況を踏まえ、セガル裁判官は、第15章に基づく米国裁判所の命令が米国で執行可能なものであり、調整案に基づいて認められる救済措置が債務を免除し、かつ、子会社保証人にかかる保証を免責する効果を有するものと判断しました。

[1] 2022年11月17日付FSD No 165 of 2022 (NSJ)(未報告)。

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