Jessica-Leigh Knowles
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Insight
20 September 2024
Cayman Islands, Hong Kong
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本記事は、ティスカバリーにおける文書管理者の判定に関する紛争について裁判所の態度を示したケイマン諸島の近時の判決を検討します。これは手続に大きな影響を与える可能性を有しています。
複雑な様相を呈する商業訴訟において、ディスカバリー手続は、重要ながらも時間と費用を要する可能性を秘める手続です。関係当事者においては戦略的なアプローチが必要です。このため、当事者は、訴訟の相手方にティスカバリーの機会を提供する義務と、“ビッグデータ”の出現または大量の関連文書を保有する潜在的な可能性を踏まえた適当な手続の実施のバランスを求めます。この目的を達成するために、通常、当事者は、ディスカバリーの枠組みを定めるディスカバリープロトコルの各条件を交渉します(ただし、プロトコルは技術要件の設定など、他の重要な点にも及びます。)。
よく争点となるパラメーターの一つに、ディスカバリー検索対象とする文書管理者の範囲が挙げられます。ここでいう文書管理者とは、手続に関連しうる文書を保有している可能性のある個人または法人を指します。文書管理者の数が多ければ多いほど、ディスカバリーレビューの対象となる文書の数も多くなるため、当事者は可能な限りその数を制限しようとします(ただし、関連文書がディスカバリーの対象から外れないようにバランスを取る必要があります。)。しかし、ディスカバリー文書の交換後、文書不足が明らかになり、他の文書管理者を追加すべきであったことが判明することがあります。
当事者が任意的に当該文書管理者を追加しなかった場合、相手方は、当該文書管理者に対する強制的ディスカバリー申立書を裁判所に提出する他ありません。これが、Jafar v Abraaj Holdings (in official liquidation) and others (FSD 203 of 2020 (NSJ)、未掲載、2023年4月30日付判決)において、まさに出現した問題でした。
この判決の対象となった請求は、中東の裕福な実業家、Hamid Jafar氏により提起されたものでした。当該請求は、総額約3億5000万米ドルの3つのローン(「本ローン」)に関し、Abraajグループに属する法人がかつて管理していた2つの投資ファンドであるGHF GroupおよびNeoma Private Equity Fund IV(他の当事者も含む。)に対して提起されたものでした。Jafar氏は、Abraajの創業者であるArif Naqviから提示された表明事項を踏まえて、2017年後半にAbraajグループのいくつかの法人に対して本ローンを実行したと主張しました。Abraajグループはかつて中東最大のプライベート・エクイティ・ファームといわれ、ピーク時には管理資産が140億米ドルに達していたといわれていましたが、2018年6月に詐欺および不正な資金管理にかかる膨大な申立てを受けて瓦解しました。
これらの手続で下されていたディスカバリー判決は、Jafar氏によるディスカバリーについて、ディスカバリー対象となる文書管理者を定めたディスカバリープロトコルの条件についての判断を示したものでした(当該判決およびディスカバリープロトコルに関する過去の記事もご参照ください。)。初期の文書管理者リストからは、Jafar氏の息子であるBadr JafarおよびMajid Jafarが除外されていました。ディスカバリー交換の後、彼の息子たちが手続に関連する固有の文書を保持している可能性が高く、したがって彼らはディスカバリー手続の対象に含まれるべきであったことが他の訴訟当事者において明らかになりました。このため、Jafar氏の息子たちをディスカバリー対象となる文書管理者に含めるべきとする命令の申立てがなされました。
ケイマン諸島におけるディスカバリーの主な義務内容は、大法院規則(GCR)命令第24条・規則第1条に規定されています。これによれば、当事者は、Peruvian Guanoの基準に従って関連性があると認められる、法的手段における争点となっている事項に関連する文書(対象となる文書を含む一連の文書。詳細は、ディスカバリーシリーズの過去の記事をご参照ください。)のうち、当該当事者が保有、管理、権限を有するものを提供しなければならないと規定しています。問題は、Jafar氏の息子たちの文書について、GCR命令第24条の下で、Jafar氏が保有、管理、権限を有するといえるかどうかという点にあります。
裁判官は、Jafar氏とその息子のMajid Jafarの間には、もう一人の息子であるBadr Jafarとの間にあるような認識があったことを推認させる十分な証拠がないことから、Majidの文書についてJafar氏が所持、保管、権限を有するものではないと判示しました。
Badr Jafarの文書については、彼が手続の対象となっている本ローンに関する交渉、手配、書面作成、資金調達、資金提供、実行、リストラクチャリングおよび彼の関与にかかる文書を所持していたことが証拠によって示されました。裁判官は、Jafar氏とその息子の間には、少なくとも、本ローンに関連するその息子の文書にJafer氏が自由にアクセスできるという認識が確立されていたことを推認する合理的な根拠が証拠によって証されていると判断しました。
以上を踏まえ、裁判官は、GCR命令第24条に従ってJafar氏が文書について権限を有することを結論付けるうえでは、当該認識が存在することで十分であり、当該認識に法的拘束力があることまでは必要ではないと判示しました。しかしながら、その求めに応じて文書へのアクセスおよび提供がなされるという単なる期待だけでは不十分としました(判決第8項参照)。
Badr Jafarに対象となる文書へのアクセスを認める認識があったことを結論付ける際に考慮された要素には、以下のものがあります:
· 当該認識が特定の事業取引の文脈で生じたため、彼らの通常の業務関係の一部ではなかったこと
· Jafar氏とBadrが父と息子であるという事実が、当該認識形成を妨げるものではなかったこと
· Jafar氏とBadrは、同一の事業会社について、共に(協働して)行動しており、重要な事業取引の利益を共有していたこと(Badrが自身の資金を拠出することを検討し、または、実際に拠出した可能性があったこと)
· Jafar氏が息子に自分の代理人として交渉する権限を与えていたことが原告の行為によって証されること
したがって、裁判官は、Jafar氏が、(本ローンが実行された後も含め)いずれの時点においても、彼の息子がどのようなことを話し、Naqvi氏と議論し、本ローンに関するコミュニケーションがあったのかを確認しなければならなかった可能性があることから、本ローンに関連する全ての文書にアクセスできる権限がJafar氏に与えられていたという認識があったと推認することが合理的であると結論づけました。
したがって、ディスカバリーによって提出された文書によって明らかにされたJafar氏と彼の息子との真の関係性を踏まえれば、Badr Jafarの文書は命令第24条に規定されているJafar氏が権限を有するものと考えられ、手続において関連する文書のディスカバリーが彼に対して命じられることとなりました。
この判決は、当事者が初期段階においてディスカバリーの文書管理者を判定し、かつ、関連文書を保有している可能性のある個人を確実にディスカバリーレビューの対象に含めることについて慎重な検討を行わなければならないことを示すものです。これを怠った場合、爾後の手続において特定のディスカバリーに関する申立てがなされ、再度のディスカバリーレビューを行う必要が生じ、潜在的には手続の遅延や混乱を生じさせる可能性があります。
本記事は、ディスカバリーシリーズの第2部です。本シリーズの最初の記事はディスカバリープロトコルに対する大法院のアプローチを解説しており、こちらからご覧いただけます。
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